「正社員にメリットはない」と言われるワケ

正社員には「高収入」「安定している」といったメリットが多いイメージがあります。しかし、働き方が多様化した現代でも、そのような「正社員のメリット」は、本当にメリットといえるのでしょうか。

この記事では、正社員のメリット・デメリットを改めて整理します。

 

 

「よく聞く正社員のメリットって本当?」

かつてよく取り上げられていた正社員のメリットが、今でも本当にメリットといえるのか検証していきます。

 

【解雇されにくい】

正社員は基本的に雇用期間に定めのない無期雇用契約のため、比較的解雇されにくいとされてきました。

ただし、近年は終身雇用の崩壊が加速しており、正社員だからといって、今後も定年まで同じ会社で働き続けることができるとは限りません

 

労働基準法では会社が一方的に従業員を辞めさせないよう、解雇は厳しく制限されています。

加えて正社員は、1年、3年など有期雇用契約で働く非正規社員派遣社員契約社員やアルバイトなど)のように契約期間の切れ目がないため、倒産などよほどの事情がない限り勤続できるのがメリットだとされています。

しかし昨今、終身雇用は徐々に減少する局面にあり、大企業だからといって生涯その会社に勤め続けることが保証されているわけではありません。

昔より転職する人も増えており、定年まで同じ会社にずっと勤めることは難しくなってくるかもしれません

 

【安定した収入】

正規雇用と比べて正社員の収入は高く、安定しており、この傾向は今後もあまり変化しないと考えられます。

時給制が多いアルバイト・パートとは違い、正社員は月給制が多いため、基本給と各種手当で毎月の収入が安定しています。また正規雇用の平均年収は494万円であるのに対し、非正規雇用175万円となっており、300万円以上の経済格差があります。

ただし、正規雇用で働く人の待遇は、今後改善される機運が高まっています。2020年には同一労働同一賃金制度が始まり、正社員と同じ仕事をしていれば同じだけの給料が支払われる原則のもと、待遇の改善が期待されています。

一方、同制度による全体の人件費高騰に伴い、年功序列ではなく実力主義の傾向が強まることで、正社員の給料が頭打ちになることも懸念されています。ただし、給料を減らす(社員にとっての不利益変更)ことは企業にとってもかなりハードルが高いため、正社員の給料がすぐにマイナスになることはないでしょう。

 

社会保険の完備】

フルタイム勤務の正社員は社会保険雇用保険労災保険、健康保険、厚生年金保険)完備で働くことができ、ケガや病気などがあっても金銭的な不安が少ないのがメリットです。

一方、非正規雇用の場合、労災保険以外の保険に加入するには「1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上」などの条件があるため、正社員と比べると加入割合が少ないのが実情です。

しかし、201610月から加入要件が緩和され、非正規で働く人の雇用保険加入率が7割近くに増加するなど、社会保険に関しても非正規雇用の環境改善は進んでいます。

 

【社会的な信用度が高い】

「正社員」という肩書きに対する社会的な信用度は依然として高く、今後も変わらないメリットであると考えられます。

例えば住宅ローンやクレジットカードの審査では、正社員は非正規雇用に比べて安定した地位や収入があるため、銀行が「返済能力がある」と判断して融資を受けやすくなります。

転職の際、正社員の経験が有利に働くことがあるのも、正社員の信用度の高さの裏付けといっていいでしょう。

もちろん、昨今は非正規雇用の労働者が多く、正規雇用だからといってローンを組めなかったり、銀行の融資を受けられなかったりするわけではありません。しかし、収入面から正社員よりも融資額が少ないことが一般的であるため、社会的信用度の高さは正社員のメリットといえます。

 

【教育制度が充実している】

正社員は無期雇用のもと、長期間勤務することが前提なので、充実した教育を受けられる傾向にあります。

特に業務外の座学研修といった「Off-JT」教育に関しては、正社員では75.7%が受けているのに対し、正社員以外では40.4%にとどまっています。長期的にスキルを育ててもらえるのは新人の正社員にとってはメリットといえるでしょう。

 

 

「正社員のデメリットとは?」

次に、非正規雇用と比べた際の正社員のデメリットを紹介します。

すべての正社員に当てはまるわけではありません。

 

【残業や休日出勤がある】

正社員は業務状況や顧客の都合によって、残業や休日出勤を強いられることがあります。拘束時間が増えるため、ライフワークバランスを重視したい人にとってはデメリットといえるでしょう。

また、給与にみなし残業代が含まれていたり、裁量労働制が適用されていたりすると、残業をした分だけ収入が増えるとは限りません。

一方、倉庫型卸売・小売チェーンのコストコなどで導入されている時給制の正社員の場合は、働いた分だけ給料が増えていくので、より多くお金を稼ぎたい人にとっては残業がメリットとなり得ます。

 

【異動や転勤がある】

有期雇用の非正規社員よりも、正社員は予期せぬ部署異動や転勤という会社の都合に振り回されるリスクが高まります。会社の命令には原則として従わなくてはなりません。人によっては家族にも影響が及んでしまいます。

異動・転勤をキャリアアップの機会ととらえることもできますが、家族と離れることや、転勤先でまた新しく人間関係を構築することにストレスを感じる人にとっては、異動や転勤は正社員ならではのデメリットになるでしょう。

 

【仕事の責任が重い】

正社員は非正規社員に比べ、仕事に対する責任の度合いが大きくなります。無期雇用の正社員と有期雇用の非正規社員では、会社側がそれぞれに与える役割が異なるからです。

正社員の場合、勤続年数に応じて昇格・昇給し、その結果大きなプロジェクトを任されたり、部下や後輩をマネジメント・育成する責任が生じたりするため、プレッシャーやストレスを感じることも多くなります。

 

「女性が正社員になるメリット」

ここでは女性にフォーカスを当て、女性にとっての正社員のメリットを紹介します。

 

【育児休暇中の収入が確保しやすい】

産休・育休を取得する際、フルタイム勤務の正社員の場合、健康保険からは出産手当金や出産育児一時金雇用保険からは育児休業給付金を受け取ることができます。

正規雇用でも条件を満たせば会社の健康保険、雇用保険には加入できるため、給付金を受け取れないわけではありませんが、有期契約の場合は「子どもが1歳を迎えた後も引き続き雇用されることが見込まれていること」という育休の取得条件に当てはまらない人も多く、取得率が低いのが現状です。

 

【保育園の審査や時短勤務も有利に】

フルタイム勤務の正社員は保育園の審査に通りやすく、時短勤務も主に正社員に適用される制度のため、働く女性にとって正社員という立場はメリットといえるでしょう。

 

【出産後も復職しやすい】

正社員の女性は非正規の女性に比べ、産休・育休後も同じ職場に復職しやすい傾向があります。20102014年の間で、出産後に就業している正規雇用の女性は69.1(そのうち育休利用が59%)であるのに対し、正規雇用の場合は25.2(育休利用は10.6%)と、大きな差があります。

出産や子育てがある女性にとって、安定した収入と制度面の充実は大きなメリットです。出産・育児において金銭面に不安がある場合、正社員への転職を検討してみても良いかもしれません。

 

 

「母子家庭における正規・非正規をめぐる問題」

日本の働く女性のなかでも、母子家庭は貧困率が突出して高いというデータがあります。

母子家庭の非正規雇用率は約5割で、その収入は夫婦世帯の4割以下ということがわかっています。保育園や学校との関係、本人の健康状態の問題からフルタイム勤務することが難しく、正社員になりたくてもなれない人が多くいるのが実情です。

しかし、より高収入の仕事に就くことが、父子家庭や共働き家庭と比べて必要性・緊急性が高い課題だと言えるでしょう。

ただし、母子家庭の女性の就業状況は改善している面もあり、2016年までの5年間で、母子家庭になった後でも不就業のまま、もしくは非正規のままの女性の割合は減り、正規就業の割合が増えています。

国も母子家庭への支援を課題として認識しており、各種支援の推進を図っています。

まずは支援内容をしっかりと理解し、可能な限り正社員になること、あるいはすでに正社員の場合は辞めないことがベターといえます。

 

 

「職業別正社員のメリットはある?」

正社員と非正規雇用の仕事内容や給料にあまり差がない3つの職業を挙げ、それぞれ正社員になるメリットがあるのかどうか解説します。

 

歯科助手

歯科助手には、正社員になるメリットは特にないといえます。正規雇用と比べて賞与(ボーナス)があることは利点ですが、基本給が安い傾向にあり、両者の収入の差は大きくありません。

歯科助手は予約管理や患者応対などの受付業務、会計計算、歯科医師のアシスタントなどの業務を任されますが、資格が必要な歯科衛生士と違い、専門性は不要とされています。また、環境によっては診察時間が延びて休憩時間も十分に取れないというデメリットもあります。

 

【飲食店】

飲食店で働く場合も、正社員のメリットはあまり大きくないでしょう

アルバイトとに比べ店長やマネージャーなどに昇進していくことで、店舗運営に関わる管理業務や事務作業(店舗の売上管理や仕入れ、従業員の管理)など、より責任のある業務を任されます。

しかし、サービス業であるため業務時間が長く、一般の会社員のような「土日休み」という決まった休みはとれないことがほとんどです。

ファミレスや居酒屋勤務の場合、深夜手当や残業手当がつくこともありますが、厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査」によると「宿泊業・飲食サービス業」の平均年収は323.4万円と低いことがわかります。

 

【塾講師】

塾講師が正社員になるメリットがあるかどうかは、状況次第といえます。学習塾の場合、大手か中小規模(個人経営の塾)かで年収額が変わり、また人気講師になれるかどうかでも金額が大きく異なります。

平成30年賃金構造基本統計調査によると、1000人以上の従業員を抱える大手塾の場合、平均年収額は454.8万円ですが、100人未満の中小塾の場合は274.3万円と差が大きく開いています。

また、他の業種よりも平均給与額は低いといえます。

塾講師は、子どもの成長を身近で感じることができるやりがいのある仕事です。平均勤続年数が11.5年と、他の産業区分よりもやや短いですが、人気講師として認められる指導力を身に付けられれば、平均年収以上に稼ぐことができます。

ただし、生徒たちが学校にいる昼間に事務作業をし、夕方から塾での指導が始まるため、生活リズムが崩れる傾向にあります。

 

 

「まとめ」

働き方改革の影響を受けて、正社員のメリットは今後目立たなくなっていく可能性があることがわかりました。

正社員でいることの安定や社会的信用度は今後も大きなメリットであると考えられる一方、業種や職種によっては、すべての正社員が安定しているわけではありません。

正社員のメリットとデメリットを考慮した上で、自分の考え方や生活スタイルに合った働き方を選択しましょう。