「30代は老後の年金をあてにできない」は本当か お金の不安がある人ほど年金制度を信じない

人生100年時代、老後への備えは20代、30代から始める必要がある。そのためにも、年金の基本を知っておきたい。

未来に思いをはせるとき、お金のことを避けて通ることはできません。

 

最近では若い世代の相談が増えているそうです。背景には、つみたてNISA 少額投資非課税制度)が始まったこと、イデコ(個人型確定拠出年金)が知られるようになったことがあると思います。しかし、大きな動機は、やはり「人生100年時代」ということでしょう。かつて「老後2000万円不足問題」もありましたね。長く続く老後、お金がいつまでもつのか心配になる人も多いことでしょう。

 

1990年生まれの人が90歳まで生存する確率は男性が44%、女性は69%です。女性が100歳まで生きる確率は20%5人に1人だそうです(厚生労働省「完全生命表」「簡易生命表」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口〈2017年推計〉」より試算)。「長生きリスク」は確かに存在しますね。末長く、幸せに安心して生きていくために、お金の問題をどう解決していけばいいのでしょうか。

 

老後のお金が不安な人に共通する「誤解」

実は、人生のお金について不安を抱く人に共通する「誤解」があります。

それは「将来公的年金はもらえないのではないか」「もらえたとしても、ほんの少しに違いない」と信じ込んでいることです。そのために、民間の個人年金保険に入って高い保険料を払っている人もいます。まずはその「誤解」を取り除くこと。

 

長生きリスクをヘッジするためのいちばんいい方法は、「公的年金を増やすこと」です。例えば夫婦2人、毎月お給料から厚生年金保険料を天引きされていますから、すでに人生にビルトインしていますね。モデル年金額(夫が厚生年金に加入して男性の平均的な賃金で40年間就業し、その配偶者が40年間専業主婦であった夫婦に給付される夫婦2人の基礎年金と夫の厚生年金の合計額)は約22万円ですが、会社員夫婦の場合は、ともに「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」を受け取れますので、より多い金額が期待できます。

公的年金保険は働けば働くほどメリットがあるように制度設計されていますので、夫婦で長く働き続けることによって受け取る年金額も増えていきます。毎月保険料を納めることで、給付を受ける「権利」を得ているとイメージしておいてください。出産育児をすることになっても仕事をやめないで続けてくださいね。

 

実は、「お金の人生設計」のスタートは、生活の基盤となる公的年金を正しく理解することなのです。「えっ、年金には心配しかなかった」「年金ってわからない」という社会人20年生、30年生の方々もいらっしゃるかもしれません。ぜひ、基本的なことを理解しましょう。

 

そもそもですが、「公的年金保険」は、自分だけでは準備しきれないことを、社会全体で備え、支えていく制度です。たとえ何歳まで生きようが、亡くなるまで年金は受け取れます。ケガや病気、死亡も障害年金や遺族年金でカバーされます。公的年金制度は「保険」なのですね。

民間の「個人年金保険」は「保険」と名前がついていますが、「貯蓄」です。自分で積み立てた保険料を一括して、あるいは10年間などの期間で受け取ります。コストが高い分、割の悪い「貯蓄」といえるでしょう。

 

「年金がもらえなくなる」ことは絶対にない

公的年金は、少子高齢化を見据え、将来にわたって制度を維持できるように制度が作られていますので、年金がもらえなくなるということは絶対にありませんから安心してください。

年金制度は、現役世代が納めた保険料を、そのときの年金受給者へ仕送りをする仕組み(賦課方式)です。将来、物価がどれくらい上がるかはわかりませんが、商品やサービスの値段が上がっているのに受給金額が変わらないと生活が苦しくなりますね。公的年金は仕送り方式ですから、物価が上がったときは一般的には現役世代の賃金もその分上昇するので、年金額も物価上昇にある程度連動して増えることになります。

それに、年金の財源は保険料だけではなく、基礎年金の2分の1は国庫負担です。保険料の一部は積立金として運用し、将来の給付に充てることができるようになっています。

若い世代が払う保険料率は固定され、負担がどんどん増えることはありません。そのうえで、今の年金の給付水準は財政に合わせて自動的に調整され、若い世代も将来一定以上の年金が受け取れる仕組みなのです。

ちなみに、自分で積み立てしていく個人年金保険は積立方式です。契約時に将来受け取る額を約束します。これから30年間保険料を払い続けたとしても、インフレによってその価値が大幅に減少してしまうかもしれません。

 

2021(令和3)年度の年金額は、2020(令和2)年度に比べて0.1%の減額改定になりました。4年ぶりの減額改定です。国民みんなが受け取れる1階部分の老齢基礎年金の満額(40年保険料納めると満額です)は、「法定額78900×改定率」で毎年改定します。改定率を掛けることで、すごく簡単にいうと、世の中の賃金や物価が上がれば上がり、下がれば下がることになります。

今までは、給料は下がっているのに、なんで年金減らないの?という状況だったのですが、令和3年度は新しいルールが適用されて、賃金下落分と連動させて年金も減額となったのです。これは現役世代の負担増を抑えるためです。

 

公的年金と自助努力の「両輪」で老後資金を賄う

年金は、今の年金受給者の年金額を少し減らして、将来世代のために貯蓄しておく仕組みになっているということをもう少しお話しましょう。

今後、賃金や物価が上がった場合は年金額も上がりますが、「マクロ経済スライド調整」という仕組みがあって、その増え方は抑制されます。少子高齢化を見据えての対策です。年金をもらう高齢者も年々少しずつ長生きになっているのと、保険料を支払う現役世代の人口が減ることを計算に入れて考えられているのです。だから、将来、若い世代が受給できる年金が過度に減ってしまうということはありません。ちなみに令和3年度は改定率がマイナスなので、マクロ経済スライドは発動せず未調整分(▲0.1%)は翌年以降に繰り越しとなります。

でも、年金だけで老後の生活を賄おうとすると、買いたいものを我慢しなくてはいけないかもしれません。豊かさをキープするために、自助努力で「貯蓄」をすることが必要です。

今後のさまざまな出費も考え、ライフプランに沿った「お金の人生設計」を立て、確定拠出年金とつみたてNISAも活用して、ゆっくりコツコツ資産形成していくのも一つの手です。「人生100年時代」の資産形成は、「長く働いて受け取れる公的年金をなるべく増やす」こと、そして「自助努力で資産形成をする」こと。その両輪で進めることがポイントです。